〜5つの定性的な世界〜
「日本型経営」の進化と「次世代リーダー」の要件
(株)リクルート川原信宏 エグゼクティブプロデューサー
『大統領のつくりかた』
〜トップリーダーの戦術と戦略〜
堀田佳男氏 インタビュー
イギリスでの交渉
元全日本空輸(株)取締役

リクルート 川原信宏「日本型経営」の進化と「次世代リーダー」の要件


川原信宏(かわはら のぶひろ)
(株)リクルートコーポレート・コンピタンスマネジメント支援室エグゼクティブプロデューサー。HR(人材総合サービス)事業、ヒューマンリソースマネジメント室を経て、HR企画スタッフとなり、その後HR事業企画室室長、HRD(教育研修)事業企画室、GHR(総合人材系)企画室、GIMC(統合販促系)企画室、コンプライアンスオフィス(法的遵守)などを兼務。2004年10月より現職を組閣し、リクルートの競争優位性(コンピタンス)を磨くべく、各カンパニーの事業ビジョンメイク/フォーカス戦略/ケーパビリティの推進、全社横断的なメディアプロデュース部のスーパーバイジングや人材育成などを手がける。日本広告学会会員。人材育成学会会員。日本ベンチャー学会会員。2005年度日本産業総合広告展銅賞受賞。



〜「5つの定性的な世界」〜
「日本型経営」の進化と「次世代リーダー」の要件
 
・事業経営、人材開発をめぐり「次世代リーダー」というキーワードがここ数年使われているが、これからの「いつの時代」の「どんな時代」を想定しているだろうか。

・漱石は『現代日本の経営』の中で、「日本は “外発的”だ、“内発”がない」と断じたという。ここ20年の経済社会においてみても、大店法改定、上場企業会計基準改定、SOX法施行などなど全て“外圧”で近代化してきている……。殊に上場企業会計基準改定、SOX法施行などは、“それに合わせる”ためにやるのか、“本来はそうして然るべき”と捉えてやるかは大きな違いで、後者においては自浄機能・自助努力の持続的形成が必要なので、これからの時代には、“内発的”にリードするリーダーが求められている。

・INSEADに行った際痛感したが、受講参加している中国人、台湾人、マレーシア人、韓国人とも皆なとても流暢な英語でディスカッションする。そして、彼らの友人や恋人は国籍を超えており、生活文化レベルでもかなりクロスカルチャーだった。国籍を超えてコミュニケーションすることが、既に体感レベルなのだ。片や、アジアに進出している日本の企業のビジネスマンは、今でも現地マネジメントにかなり苦労している……。 グローバルな外資企業のマネジメントリーダーからみると、日本国内で「雇用ミックス、女性活用、中高齢者活用」もままならない内資企業のダイバーシティマネジメントの課題は、悩みの内に入らないくらいのレベルである……。

・日本は、歴史的にみても海外から日本の中に「多様な宗教、文化、技術、制度」を取り込み、融合させることは得意としている“触媒”のような特異な国だが、ただ「ヒトの多様性」への対応は苦手なようである……。これからの時代には、それを乗り越える要件が、日本型経営に求められる。

・アングロサクソン型経営の文化的背景には、「二元論」「要素還元主義」があり、「分けて、はっきりさせていく」という論旨で典型的にはディシジョンツリー思考であり、曖昧な日本人のビジネスの世界では、ここ数年ロジカルシンキングを学ぶことがもてはやされてきた。ただ、それには“効用と限界”があることに、気づき始めた企業がある。曖昧にするのは論外だが、事業経営において「割り切れないもの」「数字で表せないこと」があるという現実である。

それには、大きくいって5つある。

1:マーケット・顧客に対する「価値」、その創造。
2:新機軸を打ち出す「概念」、その創発。
3:従業員のやりがいと協働の目的となる「意味」、その共鳴。
4:工夫の拡大再生産の源となる「知恵」、その組織知化。
5:思考と判断の背景となる「倫理」、その哲学。


これらは、P/LやB/Sには表れない。経営判断の局面で、これら「5つの定性的な世界」をどうマネジメントするかで、舵取りは変わってくる。これらに、リーダーが意義を見出し、「人材の投資」「時間の投資」「予算の投資」ができるか否かで、大きく変わってくる。次世代リーダーは、それを強く認識すべき時代だと思う。

・この「5つの定性的な世界」を、「次世代リーダー」の「充分条件」への命題として解説したい。


Q1,マーケット・顧客に対する「価値」は何か?

・典型的には、エクセレントカンパニーでは「ブランディング」への関心が高まっている。
これは、脱価格競争と持続的なロイヤルカスタマーの形成、ひいてはIRにおける個人株主の増強という事業背景からであるが、ブランディングへの取り組みは、数字に表しにくく且つ短期的には効果顕在化が難しいので、トップがこれに価値を見出すか置くかにかかっていると言っても過言ではない。

・カゴメは「ブランド価値経営」を標榜し、2002年にはコーポレートブランド戦略室を再編新設している。素材にこだわった商品は好調で、IRにおいても個人株主は2006年には10万人までになっている。自社のドメイン・コンピタンス・企業理念から、商品特性まで一貫している企業は強い。


Q2,新機軸を打ち出す「概念」は何か?

・飽食の時代と言われて久しく、バブル崩壊後のコストパフォーマンス経営から「より良いものをより安く」提供することが当たり前になり、更に商品の差別化を問われる時代。
再生した日本企業は自信をとり戻し、グローする事業計画に積極的であるが、「シェア獲り」の次元での構想か、「マーケットメイク」の次元での構想かで、将来的に得られる果実は違ってくる。後者においては、どんな「コンセプト」を産み出せるかが左右する。

・W・チャン・キム、レネ・モボルニュ氏は「ブルー・オーシャン戦略」の中で、製品やサービスのコモディティ化が進み、消耗戦が繰り広げられる既存の市場〈レッド・オーシャン(赤い海)〉を抜け出し、競争自体を無意味なものにする未開拓の市場〈ブルー・オーシャン(青い海)〉を創造すること。これこそが、熾烈な競争環境を生きる企業が繁栄しつづけるための唯一の方法であると説く。

・ダニエル・ピンク氏は『ハイ・コンセプト』の中で、左脳を使って論理的に考える重要性は無くならないものの、今後は「右脳を生かした全体的な思考能力」と、「新しいものを発想していく能力」が必要となると説く。自社の事業開発・商品開発において、「コンセプト」から発想することを指向するリーダーと、「コンセプト」より機能論を優先するリーダーでは、その創造物は自ずと違ってくるのだ。成熟市場でのサントリーの「伊右衛門」、花王の「アジエンス」のヒットは、機能価値だけではない感性価値を宿した「コンセプト」が勝因である。後者のようなリーダーであれば、このような開発は成されていない。


Q3,従業員のやりがいと協働の目的となる「意味」は何か?

・リクルートワークス研究所「2015年予測レポート」によると、2002年で68%だった正社員比率が、2015年には45%になると試算している。

・“社会の縮図”としての企業の中で、非社員のアルバイト・パート、業務委託、派遣は、昇給・賞与、昇進・昇格というモチベーションリソースが効かない従業者が、過半数の構成を占めてくる。社員も終身雇用制ではなくなり、実力主義人事制度で報酬の上下動は激しい。その現実は、メーカーにもサービス業にも及ぶ。 「何のために、誰と、どこで働くのか?!」という素朴な問いが心をよぎる……。

・担当する「仕事そのものの醍醐味」、「協働して目指すビジョン」、「社会的に提供したい事業ミッション」、それらを、雇用形態や属性を超えて共鳴できるレベルまでコミュニケーションしているかで、従業員の働く喜びと、企業の知的生産性が大きく変わってくる。

・ジェームズ・C. コリンズ、ジェリー・I. ポラス氏の『ビジョナリーカンパニー』がまとめたベストプラクティス、ダイバーシティマネジメントに迫られる日本の企業は、どこまで実践できるかを求められてきている。


Q4,工夫の拡大再生産の源となる「知恵」は何か?

・事業計画を描いても、なかなか“絵に描いた餅”のようにならないのが現実である。現場感をもった企画と運営が重要である。

・日本ではMBAブーム真っ盛りだが、H・ミンツバーグ氏は『MBAが会社を滅ぼす』の中で、数値管理とテクニックを中心に教えるMBA教育は、もはや時代に合わないと説く。マネジメント教育は、“現場で実践”を積んだ人材を再教育する場にすべきだと強調している。

・また、日本の「職能主義」の弊害はあるが、欧米の「職務主義」も弊害は出てきている。昨今復活している日本の企業は、この両者を融合したような形態のマネジメントを指向している。トヨタやキャノンのキーワードは、「現場力」。ヒトは考え、工夫していくことに知的喜びを見出すものであり、殊に日本人はその性向が強い。従業員一人ひとりに工夫することを奨励し、「工程・顧客接点のPlan-Do-See」を志向しいている企業は、磨かれる。その工夫を、「組織の知恵」として共有・浸透する仕組みにまでしている企業は、更に強い。前者は、個人の市場価値を高める自己責任としての「プロフェッショナル化」へつながり、後者は、法人の市場価値を高める組織体としての「ケーパビリティ」へとつながる。この両方とも高める施策が必要な時代なのである。


Q5,思考と判断の背景となる「倫理」は何か?

・雪印、不二家の製造問題、三菱自動車、松下電器などのリコールは記憶に新しい。
こういう問題は発生時の対処法もさることながら、本質的には発生原因への対策であり、従業員の倫理観に帰着されてくる。昨今は、CSR、インフォームドコンセント、アカウンタビリティを問われる中、これらのことを、リスクマネジメントと捉えるか、社会的使命と捉えるかで、その姿勢は大きく違ってくる。

・ジョンソン&ジョンソンは「クレド:わが信条」を、行動規範レベルまでブレイクダウンし、その持続的な組織浸透をグローバルで徹底し行っている。

・これら「5つの命題」、言い換えると「事業経営―売上・利益=?」「経営資本―ヒト・モノ・カネ=?」という命題に、リーダーとしてどう応えるか……。

・リーダーとは、文字どおり「指導者」であるが、「創造者」でもあるべき。リーダーの第一要件として、判断力がよく挙げられるが、それは「必要条件」であって「充分条件」ではない。例えば、部下が起案してきた案件を判断はするが、その各論化イメージや代替案が浮かばないリーダー……また、自分が直感で判断して指示するが、部下が各論化をできないでいらつくリーダー……ビジネスの複雑性が増す中で、この両者のいずれかに該当する問題は、割と多いのではないだろうか。
このような問題をクリアしていくためには、リーダーの「個人の要件」の次元に留まるのではなく、「組織の要件」としてのコンピタンスに生成していくことが肝要である。 そのためのリーダーの「充分条件」が、前述の「5つの定性的な世界」に意義を見出し、「組織の要件」を満たしていくための創造である。

これら「5つの定性的な世界」をばらばらではなく“体系的、組織的”に取り組んでいる企業は、まだ少ない。
事業経営のサステナビリティ(持続可能性)のために、無自覚的、結果論ではなく、自覚的にコンピタンスを磨く時代になってきているのである。

株式会社リクルート
コンピタンスマネジメント支援室
川原 信宏

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